『ホメオパシー』内科医/ホメオパシー医学会認定医 李利亜さん
平日は宮城県で内科医として勤務され、
週末は東京でホメオパス医として講演や個人セッションを行うという、
ハードなスケジュールをこなす李利亜先生に「ホメオパシー」について伺いました。
Q.まず「ホメオパシー」とはどのようなものか教えて下さい。
「ホメオパシー」(Homeopathy)とは、200年前にドイツ人医師
サミュエル・ハーネマンがはじめた自然療法です。
「Homeo」とは「似たもの」、
「pathy」とは「苦しみ」という意味があります。
症状を打ち消したり、押さえ込んだりするのではなく、
その時の状態に似たもののエネルギーを使い、自然治癒力に働きかけて治療するものです。
古代ギリシャ、ヒポクラテスの時代から、「治療は似たもので行うか、逆のもので行うか」というコンセプトが存在しました。
アロパシ−(Allopathy)は逆のもので治療を行うもの(逆症療法)であり、対して「ホメオパシー」は似たもので治療(同種療法)します。
Q:どのように行われるのでしょうか。
心身の不調の背景には心理的なストレス、性格、体質など、さまざまな要因が深く関わっています。
「ホメオパシー」のセッションでは、1〜2時間かけて詳しく話しを聞き、
その方にあったレメディー(remedy)を処方します。レメディーを選ぶために、現在の問題点、よく見る夢、子どもの頃のことなど、様々な事も伺います。
レメディーとは、砂糖玉に植物、動物、鉱物から抽出したものをまぶして作られたもので、化学薬品は使用していませので、幼児や妊娠中、授乳中でも使用する事が出来ます。
「remedy」には「retune to medium = 中間のバランスを取り戻す」という意味があります。バランスを崩していたものを中間に戻す、人のバランスを取り戻すもの、ということです。一般の薬(medicine)も、同じ目的、意味があります。
ホメオパス医の中には、一切の薬を否定する方もいらっしゃるようですが、どちらも治癒を目指していることを踏まえ、状況に応じて、その時に必要なものを一緒に考えたいと思います。
Q:先日講習会に参加させて頂きましたが、
小さなお子さんをお持ちの方が非常に関心を寄せているように感じました。
いらして頂いたのは「入門講座」でしたね。
お子さんの同伴もOKなので、多少賑やかなクラスになりますが、ここでは、ホメオパシーの基本とセルフケアの仕方、セルフケアで良いのか、病院へ行くべき状況か、これらの見極め方などをお伝えしています。
薬でアレルギー反応が出たことがあるとか、薬に不安を感じてホメオパシーに興味を持つ方が多いようですが、薬や病院に行くことを否定するのではなく、利用すべき状態があることを学びます。
お子さんの食物アレルギーでお悩みのお母さんも、参加者には多いのですが、アレルギーをお持ちのお子さんは、卵であったり牛乳であったり、アレルギーの原因の明らかなものだけでなく、「ほかの色々なことにも敏感」という性質があるように思います。この部分にはセルフケアではなく、個人セッションで個別の対応が必要です。
アレルギーは、日本語で「過敏症」とも呼ばれます。
体質的に特定の物質に対して過敏なだけでなく、精神的にも、外界のどんなものに過敏であるかも、個人セッションの処方の際には重視します。こうした「外界の他の事柄に対して過敏」という性質の方からアプローチすることを、「ホメオパシー」では、「食物やスギ花粉など外界の物質に対しても過敏」という性質の『根本』を癒す時の所見として加味しています。そこには、精神—神経—免疫学的なメカニズムが関わっていると考えています。
Q:根本の体質を考えていくことは「内科医的見地」からもあることでしょうか。
やはり薬品では、そこまでは難しいところです。
アレルギーの症状があったら抗アレルギー薬を使う、というような形が一般的ですが、中には効果のでない方もいらっしゃる。そうした時には、「他のことにも過敏である」という見地からアプローチをする個人セッションが有効な場合もあると思います。
「雷がダメ」と言う事には、対応する薬品はありません。
他にも、「音」に対して敏感である、しかも音楽ならば大丈夫だけれども、怒鳴り声はダメであるとか、そこまで細かい所見に対処することは、薬品では出来ないのです。
例えば、「怒り」や「泣く」と言う表現で過敏さを表しているお子さんもいると思いますが、世間では問題行動のある子という扱いになるかもしれません。世の中に生まれ落ちてまだ数年の短い期間かもしれませんが、適応に際して何らかの問題があるわけですね。
「ホメオパシー」であれば、その問題の、微に入り細に入り、細かいところまで探ることが出来るのです。
Q:そうしたアプローチを行うツールとして、なぜ「ホメオパシー」を選択なさったのでしょう。
まず、精神面での所見の細かいところに対応が出来ると言うことですね。
よりその方に合ったものを、植物ですとか動物ですとか鉱物の中から選んで差し上げられることが、ホメオパシーの良さだと思っております。
痛み一つとっても、一人一人「痛い」の中味が違います。
「刃物で切り刻まれるような痛み」と「重苦しくて身動きがとれないまま、体が硬くなっていく痛み」とでは、処方するものは同じではありません。それぞれの違いにあわせて治療できるという点が、最大の魅力だと思います。
もともと、私は心療内科や精神科出身ではなく内科医ですので、薬をずっと使い続けても良くならないですとか、薬が必要な状態が益々増していくということに対して、何か対応出来る、アプローチ出来る「ツール」がないか、と考えたのも理由のひとつです。
漢方にも、長年にわたる蓄積の素晴らしさはありますし、勉強したことはあるのですが、より心情的な細かい部分を汲みたいとの興味がわいてきた時、精神的な所見の詳しさは、漢方よりも「ホメオパシー」が勝っていると私は感じました。
また、精神-神経-免疫学的な部分は、人間の体の中で大事な仕組みだと考えております。まだ比較的新しい学問ですが、これから「人が癒える」ということを考えていく上において、非常に重要なジャンルになってくると思います。その点で「ホメオパシー」は大変適したツールだと思います。
痛みやアレルギー以外にも、さまざまな疾患のサポートに併用できる可能性もあると考えています。
Q:内科ご出身で精神科ではないとのことですが、
ホメオパシーではリンクする部分がかなりあるように感じますが。
そうですね。
体の不調だけに焦点を絞っていた時、
『どうして結果が出ないのだろう。痛み止めを飲んでいるにも関わらず痛いとか、抗アレルギー薬を出しているにも関わらず花粉症症状が治まらないとか、アレルギー症状が改善されないという方には、一体何が起こっているのだろう』と考えた事が出発点でした。そこには、精神的な部分が大きく関与していたのです。
ある時、スーパーマーケットの検診に行きましたら、
『ベーカリー部門の主任になってから小麦のアレルギーが始まった』
という方がいらしたのです。この方は抗アレルギー薬があまり効かない方でした。
それまでアレルギーなんてなかったのに、主任に就任した途端アレルギーなった、と。
そしてその方は、毎晩深酒をなさるとのことでした。
ここで診るべき事は、アレルギー自体を抗アレルギー薬で押さえる事ではなく、毎晩飲まずにいられない心理的葛藤の方を汲むべきではないかと考えたのです。
アレルギー症状と精神的なところが深くつながっていると実感した出来事でした。
Q:まさに「心と体はコインの裏表」だったのですね。
そうです。
Q:なぜ「医師」を志されたのですか?
父が医者であったことに影響を受けた事もありますが…人の喜ぶ顔が見たかったように思います。
「何か人の役に立つような仕事がしたい」と思っていました。
良くなられて、楽になったと言って頂ける事が今でも一番嬉しいですね。
Q:内科医とホメオパス医の間にギャップはありませんか?
目の前の方の求めに応じて、その方に必要なこと、その方が楽になるために必要なものを使うというコンセプトでやっておりますので、使うツールが、薬であろうとレメディーであろうと、私の中で矛盾はありません。
薬だから安心と言う理解の仕方や、病院でないと不安という方に対しては、持っている「薬」というツールの中から、よりその人に合ったものを選びます。
逆に、病院の枠組みの中からこぼれ落ちてしまうような方達もいるのですね。通院しているけれど良くならない、ずっと薬を飲み続けている事に不安を感じる、医療に対して何か不信感をお持ちである、というような。
こうした、枠組みから外れてしまう方達にも「ホメオパシー」ならばアプローチする事が出来ます。
私は、「その方が、その時に必要な事をする」ということを、常に念頭においております。
Q:医療はあくまでも「ツール」であって、見るべきは「人」である、というお考えのように感じます。
その通りです。
Q:ご自身の体と心のバランスはどのように取られているのですか?
特に、これと言って熱心にしていませんね(笑)。たまに整体に行くぐらいです。
ですが、患者さんの問題と自分の問題の「区別」をすることは、常日頃心がけています。
患者さんの話に影響されるというのは、自分と他人との区別が明確でないことや、自分の問題を投影するために起こると考えています。その切り離しがきちんとできていれば、あまりバランスを崩すことはありません。
Q:プライベートでのストレス発散は何かありますか?
新幹線に乗る生活自体がストレス発散になっているのだと思います(笑)。
端から見ると、この生活がものすごく大変にうつるようで、
『平日も宮城県で患者を診て。週末もわざわざ東京に出てきて患者を診て、なんて先生タイヘンなんでしょう』と、涙ながらに感謝して下さる方もいらっしゃるのですけれど(笑)、どうもこの生活が、私自身のメンタルヘルスを保つのに非常に役に立っているような気が、私としてはしております。新幹線に乗って上京する事は、普段いるところと別の場所に行くわけですから、
ちょっとした旅行のようで(笑)。
このこと自体が大きな気分転換になります。
仕事以外では、美術館や歴史的なもの、普段の生活の中では見ないであろうものに触れることは、心休まる一時ですね。
Q:現在「ホメオパシー」がおかれている社会的な位置について、どのようにお考えでしょうか。
いろいろな問題があると思います。
ごく最近、テレビ番組で「ホメオパシー」を好意的に扱うものが放映されました。題材になったのは「ガン」でした。
ガンは、通常の医療の枠組みで一から十まで全て介入出来る事ばかりではありません。
番組では、薬品や手術による介入が出来なくなった時期に「ホメオパシー」をお使いになる先生が好意的に取り上げられていました。この報道を、私はちょっと『危険だな』と思っております。
ガンの場合、一足飛びに代替医療に飛びつく事、や「ホメオパシーで治る」と言うような「短絡的」な考え方をして欲しくないと思います。
自然療法の道を志し、治療家になる方の中には、自分が見聞きした現代医療への印象の悪さから病院や医者への不信感を持ちそれがキッカケという方も多いようですが、こういう方にありがちなのが、自分自身の持つ「恨みつらみ」に患者を巻き込む、ということですね。
それをやらないのが「プロ」だと私は思います。
例え自分が手術は苦手だとか嫌だと思っていたとしても、患者さんの問題とは別に考えるべきです。
患者さんに手術が必要ならば、術前術後の不安や恐怖感に対するサポートという使い方もできると思います。
海外のベテランの先生の経験では、ガンが小さくなるケースもあるようですが、そういう事を勉強会で見聞きしたり、教科書で読んだからと言って、キャリアの浅いホメオパシー医が、そのレベルで治療ができるかということは別問題です。
この点に関しては、情報を受け取る側が注意をして頂く必要があると思います。
Q:報道する側の姿勢も問われますが、情報を受け取る側にも、責任と成長が求められますね。
治療家を選ぶ時、私の個人的基準の一つとして、「癌が治る」と簡単に言って歩く人を信用するな、というのがあります。
いい事ばかりを並べ立てるような治療家を、私は信用すべきではないと思っています。
では、ガンに対して「ホメオパシー」のできること何だろうか、と考えた時、やはり、その先に死があるとして、限られた時間が短いものでしたら、死の不安や絶望感を少しでも和らげて、残りの時間がより良いものになるようなお手伝いをする、という方向性でお使いになるのが良いのではないかと思います。
また、看病なさるご家族、見送られた後のご家族の心身のケアにも、きちんとした個人セッションを受けて頂いた上でならば、非常に有効ではないかと考えています。
「ホメオパシー」の可能性は、こうしたところにあると思います。
Q:素人のセルフケアがはらむ危険性についてもご意見をお聞かせ下さい。
ここ何年か、家で長々と粘ってしまい、悪くしてから病院に連れて行くという問題点が言われています。
これに関しては、家で粘らせないために、「このような状態は家では無理ですよ」ということを伝える必要があると思っております。そのために、講習会を開いております。
実際、なんの知識もなく飛びついてしまい、アレコレやっても効果が出ないと言う状況もあると思いますので、まずは勉強して下さいと申し上げたいですし、そのための場を提供しようと考えております。勉強をして頂くと、より使いやすくなりますし、病院に行く回数も減らせますので、医療費の削減にも役立つと思います。
独学で上手になる方もいらっしゃるかもしれませんが、どうもやってもうまく行かないとお感じになった場合には、勉強する時間が取れるようになるまで、少し使用を控えた方がよろしいと思います。
また、セルフケアとしてご家族で上手に利用される事と、他人に処方する事は基本的に別物と考えて頂きたいと思います。友人同士で勧めたり、口コミで広がっていくのも悪くないともいますが、ここでも、受け手側の成熟が求められると思います。
本当に自分に必要かどうか、一歩引いた観点で冷静に判断して頂きたいですね。
Q:仕事の中で一番大切にしていることは何でしょう。
「その人自身によりそうこと」です。
薬を使う場合でも、病院ではない枠組みでの治療をご希望になる方の場合にも、
その人自身に寄り添うような形で治療を行うことを大事にしています。
Q:素晴らしいですね。この姿勢が全ての医療機関で実践されたらと願って止みませんが、
なかなか難しいのが現状なのでしょうね。
通常の医療では難しいところはあると思います。
私が実家で内科外来をやる時は、時間的なゆとりのある恵まれた環境です。
一方で、大学病院などでなければ出来ない治療もあります。
よく話しを聞いて欲しい時には近所のかかりつけを選ぶなど、病院に何を求めるのか、患者さんも、病院をきちんと特化して選ぶ事が大切ですね。
Q:初めてホメオパシーに触れる方へのアドバイスがあればお願いします。
心と体、両方にアプローチするものですから、自分自身にあったコンセプトのものかどうか、
よく吟味して頂きたいと思います。
ホメオパシー以外にも様々な代替医療の情報に関しては、冷静な観点で見る事が必要だと思います。
バイブル商法のように、いい体験談ばかりが並んでいるものは、やはり、注意する必要があると思います。
Q:今後の目標を聞かせて下さい。
状況が許すようになった時には、東京近辺でクリニックを開業したいと思っております。
ありがとうございました。楽しみにお待ちしております。
●reviveより
スタンスのぶれない「プロ」。
どの角度から伺っても、立脚する立場と信念の揺るぎなさが心地良かった。
自身の仕事に誇りと喜びを持ち、何より、自分の仕事が「好き」。
この「自分の仕事が心底好き」と言えるヒトは実はとても少なく、
この点が彼女をぶれさせないことにもつながっているのだと感じる。
だから、どんなに大変な勉強もスケジュールもこなせるのだろう。
迷いのないその姿勢は厳しくも清々しい。
ホメオパシーという方法論の素晴らしさもさることながら、
最後は、そのツールを使う人の「人間性」に行き着くのではないだろうか。
スタンスのぶれない「プロ」。
どの角度から伺っても、立脚する立場と信念の揺るぎなさが心地良かった。
自身の仕事に誇りと喜びを持ち、何より、自分の仕事が「好き」。
この「自分の仕事が心底好き」と言えるヒトは実はとても少なく、
この点が彼女をぶれさせないことにもつながっているのだと感じる。
だから、どんなに大変な勉強もスケジュールもこなせるのだろう。
迷いのないその姿勢は厳しくも清々しい。
ホメオパシーという方法論の素晴らしさもさることながら、
最後は、そのツールを使う人の「人間性」に行き着くのではないだろうか。