絵師/よしだみよこさん
ヒラメキ!は『水が流れるトコロ』で湧いて来る!
クライアントのコンセプトとメッセージのくみ取り、それを『絵』やデザインとして表現するのが、自称・絵師、よしだみよこさんの現在の主な生業だ。そうして生まれた『みよこ・ワールド』は、シンプルで単純化された線と色で作られている。しかし、全てのクリエイティブな仕事に携わる人の例にもれず、そこに至るまで過程は長く、試行錯誤の繰返し。常に手元においているスケッチブックには、細かい文字と、様々な構図の下書きやアイディアが、本人にしか解読できない形でぎっしりと書き込まれている。
一旦構図が決まると、それからの作業は速い。「描き始めたら途中で止めることができないんです。だから徹夜しても最後まで一気に仕上げます。集中力が途中で切れるのが嫌だから」と、よしださん。
「人は頭の中にいくつものポケットを持っていると思うんです。私は食事をしていても、頭の中のポケットのなかで、意識する、しないに関わらず、なにか常に考えています」。では、ポケットからアイディアが『ポロッ!』と落ちて来るのは、どんな瞬間なのだろう?
「私の場合、お風呂とかトイレとか、水が流れるトコロで出て来るみたいです!考えて、考えて、考えて、考え過ぎて、『もうダメかな?』という時に出て来たり、忘れた頃に出て来たり・・・・。だからこうして出て来たアイディアは、出来るだけメモするようにしている。また別の時に出て来るとは思うのですが、書いておかないと忘れてしまうような気がして...」。
クリエイティブな仕事をしている人は、考えをまとめるために散歩するというイメージがある。よしださんの場合は?
「実は、ブラブラ散歩する時間は余りないんです。『気分転換に旅行に行こう!』と誘われると、ちょっと慌ててしまう。もちろん行けたらいいけれど、お金も時間もかかるうえに、『旅行に行っている間に仕事が入ったらどうしよう?』と考えてしまって、気分転換どころか、むしろストレスになる」。
フリーランスは身体が資本。よしださんの健康法は水泳。やっぱり『水が流れるトコロ』だ。自転車で近所の温水プールに行く。「でも、制作中には自転車でプールに行くなどという『無茶』はしません!描いている時は、たとえ『今日は自転車で、新宿にいってみたいな!』と思ったとしても、やらないですね。気分はスッキリするかもしれないけれど、眠くなるし、仕事は進まないし、後で後悔するのは目に見えているから。とにかく絵を描く体力を温存するのが第一なので、自制します!」。絵師のよしださんは、フンワカ・おっとりのやさしい外見とは違い、かなりストイックな仕事人間のようだ。
生まれた時から絵師だった?
大学卒業後、「アテもなく、コネもなく、ツテもないまま」、いきなりフリーランスのイラストレーターになったと公言しているよしださん。正式に絵を習ったことはあるのだろうか?
「私は生まれた時から絵師だったんです!とにかく絵を描くのが好きで、いつも絵を描いていました。でも私の知る限り、家系に絵師はいません。但し、幼稚園くらいから中学半ばまで、近所の『お絵描き教室』には通っていました。余り誉められもせず、先生によく直されていました」。静物画は描いていても、デッサンを正式に習ったことがなかった彼女。美大に進むためには、それなりの準備や、予備校に通うことが必要なことも知らなかったと言う。進路決定の時に先生に、「今から美大を受けたいなんて、遅すぎるよ!」と言われて、早稲田を受験した。
「小学校の時は『絵本を描きたい!』という夢を文集に書いたこともある。文章を書くのも好きだけれど、本当に好きなのは絵を描く事なんです」。
『ぽち袋』
5〜6年前から神楽坂の数軒の店で、よしださんがイラストを描いた『ポチ袋』が売られている。花街のイメージを出すために彼女が作り出した、『チョイワル』黒ネコのキャラクターは、大人から子供までとても人気がある。
ぽち袋を母親に買ってもらった8歳児の、「どうすれば上手にネコが描けますか?」という質問に、彼女はこう答えてくれた。
「私の場合には、ミミから描き始めます。上手に描こうと思わずに、自分のネコを何枚も何枚も描くことが大切だと思います」。
ネコや動物は、よしださんにとっては『描きなれたキャラクター』らしい。『ペット大図鑑』というウェブサイトでいっぱい犬やネコを描きまくったことがあるので、それ以来、街を歩いていて犬やネコにあうと、それを『形』として見るようになったと言う。
これからのやってみたいことは?
和の雰囲気たっぷりのよしださん。レトロ好きのアナログ型人間のように思えるが、実はバリバリのデジタル・アーティスト。彼女の作品の殆どは、コンピュータグラフィックスで、『ぽち袋』もデジタルで作画・印刷されている。
彼女が作家・たちばなるみさんの「dawa et nima」のために描き下ろした作品の『お披露目会』が、11月に神楽坂のスペース・フラスコで行われたが、展示された作品の殆どがコンピュータグラフィックスだ。「私のなかでは、水彩絵の具、アクリル絵の具、クレヨン、パステル、コンピューターは、全て並立の『画材に一つ』なんです。その時に描きたい物の最終型に最も相応しい『画材』を選んで描いているだけ」。
ぽち袋の黒ネコも、「dawa et nima」の黒猫とピンクのうさぎも、平面的な静止画だ。しかしよしださんの頭のなかでは、彼らは常に動いていると言う。そしてこれからやってみたい仕事としては、「映画のポスターや映画のなかで使われる絵、プロモーション・ビデオの背景作成」という答えが、勢い良く返って来た。
「依頼されたプロジェクトのために絵を描く場合には、クライアントさんの望みや願いを叶えることが私の仕事だ」と言い切るよしださん。ターゲットの正確な把握に基づく、色や図柄、そして絵のタッチを選ぶことも必要になる。「こういう『お約束』があるなかで、いかに自分も楽しく製作をするかが大切になる」。
それは、「クライアント・ベースの仕事の他に、金銭的な余裕が出来たら自分のクリエイティブな作品作りをしたい」という気持ちの現れとは違うのかな?
「う〜〜〜ん。今はクライアント・ベースの仕事と、クリエイティブな仕事という『境界線』がちょっと分らない状態になっている。結局、描いているのは私だから・・・・」。
仕事を通して経験を積み、技術を向上させてきた彼女には、他にも本の装丁や、大人向け・子供向けの絵本の製作と、『これからやりたいこと!』が沢山ある。さらにみよこ風の『花札』を作りたいという夢も!?「まだどんなものになるか、皆目見当もつかないのですが、是非、作ってみたいです!」
日本の花鳥風月を独特にデフォルメした強い色の『花札』が、パステル系が主流のよしださんのコンピュータグラフィックスで、どんな21世紀の「HANAFUDA」に仕上がるか、是非はやく見てみたい。
◇ コーヒー・ブレイク:
結婚相手の出向先に、これから2年間『限定』でついて行くというよしださん。『水が流れるトコロ』が、最もアイディアが降ってくる場所でありながら、料理をしている時だけは、他のことを考える余裕がないと言う。つまり料理はチョット苦手?「おいしそうな料理の絵ならたくさん描けるんですけどねぇ...。程よく焼けた魚とか、得意なんですけど・・・」。
ただでさえ、かなりストイックな仕事人間で、ときどき『もの思いにふけること』が得意なよしださん。ワーク・ライフ・バランスを上手に保ちながら、2年間を楽しく過ごして下さいね!
結婚相手の出向先に、これから2年間『限定』でついて行くというよしださん。『水が流れるトコロ』が、最もアイディアが降ってくる場所でありながら、料理をしている時だけは、他のことを考える余裕がないと言う。つまり料理はチョット苦手?「おいしそうな料理の絵ならたくさん描けるんですけどねぇ...。程よく焼けた魚とか、得意なんですけど・・・」。
ただでさえ、かなりストイックな仕事人間で、ときどき『もの思いにふけること』が得意なよしださん。ワーク・ライフ・バランスを上手に保ちながら、2年間を楽しく過ごして下さいね!
『渦巻き』のように巡りめぐる、命の『輪』の大切さ
よしださんは「私は、人も動物も植物もみんな同じ、等しい命だと思っています、全ての命はつながっていて、渦巻きのように、巡りめぐっていると思っています」と言う。
「自分の未来や、こどもたちの未来をハッピーにしたいなら、まず、私たちの住む環境のことを考えたい。人間はこれからどうあるべきか。これは思想の問題でも、哲学の問題でもなく、『今日のランチは何にしようか、おいしいものをたべたいよね』と同じレベルの話だと思っています。警鐘を鳴らすだけでなく、解決に向けて、楽しい未来に向けて、みんなでレッツゴー!したいです」。こういうメッセージが込められた、よしださんの絵本も、はやく読みたいと思う。