コトノの夢は世界中を旅すること。
違う風土、違う文化の中で生まれ育った人たちが、何を考えて生きているのかを知りたかったから。
「何を考えているかって?そんなの決まってるよ。世界中どこでもみんな同じさ」
「え?同じ?何を考えてるの?」
「何を食おうか、ってこと」ショーゴはこともなげに言い放つ。
「ええっ!?そんなはずない!だって私はそんなこと考えてないもん」
「食べる」ということは、そんなに大事なんだろうか。
そんなことを言ったら、飢餓に苦しむ国の人たちに責められるだろうが、
そりゃあ食べなきゃ生き続けられないのだが、…なんだかそれは違うのだ。
食べ物が豊富にあったら、かえって生きにくいのだ。
コトノは大学に入学すると同時にひとり暮らしを始めた。
ひとり暮らしの楽しみは、誰にも止められずに好きなバナナや
ポテトチップス、甘栗なんかを心ゆくまで食べられること。
「もうやめなさい。夕飯が食べられなくなるよ」とか
「そんなに食べたら鼻血が出るよ」とか、
コトノの集中食いを見かねて止める母が
そばに居ないのは快適だった、…当初は。
まもなく、自分の食欲中枢が麻痺していることに気づいた。
食べ終える基準は、おなかがいっぱいになったかどうかではなく、
手元にあるその食べ物を最後まで食べつくした時、だった。
こりゃいかん、ということで、自分が食べたい好物を自宅に置かないことにした。
食べ物は嗜好品ではなく、生命を維持するために
摂取しなければならないエネルギー源、と割り切ることにした。
自分の「食欲」という欲望にフタをして、朝食は玄米と納豆だけと決めて暮らしてきた。
ショーゴは農業関係の会社で食の安全問題を担当しているらしいが、
食べ物は「おいしくて、腹いっぱいになればいい」と農薬なんかも気にしないで何でも食べる。
修行僧のようにつましい食生活をおくるコトノのために、
頼みもしないのにせっせと料理をしにやって来る。
ショーゴが作るローストビーフも蓮根のきんぴらも季節野菜のサラダも、
どれもほっぺたが落ちるくらいおいしい。
だからさぁー、それが困るのよ。
ほど良く「欲望」を味わう、その加減が難しいのだ。
「バベットの晩餐会」 1987年 デンマーク映画 監督:ガブリエル・アクセル
「未来の食卓」 2008年 フランス映画 監督:ジャン=ポール・ジョー
「未来の食卓」 2008年 フランス映画 監督:ジャン=ポール・ジョー
●最終話:妄想は賢い女の娯楽道
●第二十七話:秘められた人生計画
●第二十六話:若いだけで素晴らしい
●第二十五話:堕ちてくオトコを助けない
●第二十四話:未来は思い出よりも美しい
●第二十三話:終着点を越えて
●第二十二話:品行方正の言い訳
●第二十一話:そういう人になりたい
●第二十話:本当のお姫さま
●第十九話:昔あったかもしれない楽園
●第十八話:愛を仕分ける年末
●第十七話:ステキな小学生を探せ!
●第十六話:初恋はエクスプレス
●第十五話:帰れない観光客
●第十四話:熟女も踊る
●第十三話:あと出しジャンケン
●第十二話:家電ヒストリー
●第十一話:ご長寿アニマルのたくらみ
●第十話:食べるならとことん
●第九話:異邦人は直訳で会話する
●第八話:こだわらない性格
●第七話:白黒つけたい!
●第六話:他力本願はソレだけ
●第五話:冬眠する蝶
●第四話:イタい女
●第三話:サバイバルのことではなく
●第二話:チョイ役の冒険者
●第一話:レモン・ロマン・やせガマン
Storyteller : 高倉アリス
高倉アリスさんへの
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●第二十七話:秘められた人生計画
●第二十六話:若いだけで素晴らしい
●第二十五話:堕ちてくオトコを助けない
●第二十四話:未来は思い出よりも美しい
●第二十三話:終着点を越えて
●第二十二話:品行方正の言い訳
●第二十一話:そういう人になりたい
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●第十話:食べるならとことん
●第九話:異邦人は直訳で会話する
●第八話:こだわらない性格
●第七話:白黒つけたい!
●第六話:他力本願はソレだけ
●第五話:冬眠する蝶
●第四話:イタい女
●第三話:サバイバルのことではなく
●第二話:チョイ役の冒険者
●第一話:レモン・ロマン・やせガマン
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