北欧家具って苦手だ。
60年代、団地暮らしのテルミの家の家具はあんなふうだった。
「北欧風でステキ」と思って揃えたわけでもなかっただろうし、
当時の中流家庭の家具のスタンダードがあんなふうだったのかもしれない。
「北欧」を意識していたわけでもないのに、子供のテルミには家の中が寒々と感じられたのだった。
物心ついたときから、ダイニングルームの壁に、ザクロを描いた油絵が飾ってあった。
朝食をとるときも、夕食をとるときも、眺めていた。
ザクロはその絵でしか見たことがないので、写実なのか、へたくそな絵なのか、分からない。
その絵を見る限りにおいては、食べたいフルーツのようには感じられなかった。
灰色のテーブルの上に2つの果実が置かれていて、パクリと口を開いて、
そこから苦そうな赤黒い果肉の粒がこぼれ出ている、濁った暗い絵だった。
でも60年代の食卓に似合う色をしていた。
「誰が描いたの?」と聞くと、母は「友達の友達」と答えていた。
引越しを繰り返しているうちに、いつの間にかその絵はなくなっていた。
「そういえばあの絵どうしたの?」と母親に聞くと「捨てた」と言う。
「誰が描いた絵だったっけ?」と聞いてみたら、
母は「友達の、死んだ友達」と答えた。
友達とは、母が結婚前に通っていた洋裁教室の友達で、
年下の美大生の彼氏と同棲していたのだが、
精神を病んだあげくに彼は自殺した。
母は遺品整理の手伝いに行って、その絵をもらったらしい。
「なんだか気持ち悪いので、やっぱり捨てた」
そりゃそうでしょうよ、とテルミは思う。
そういう事情を知らなくても「なんだか気持ち悪い絵」だったのだ。
自殺したのは、本当に母の「友達の彼」だったのかな、と夢想してみる。
「母の彼」で、実は「私の本当の父」だったりして、と想像するとドキドキする。
テルミの家の家具は60年代から50年を経て、その時代に合わせて徐々に変貌してきた。
再び「北欧風」に戻る気はしないが、あのざくろの絵を今の時代に眺めてみたら
レトロ&モダンないい味を出しているのかもしれないな。
「モンパルナスの灯」 1958年 フランス映画
監督:ジャック・ベッケル 出演:ジェラール・フィリップ/アヌーク・エーメ
監督:ジャック・ベッケル 出演:ジェラール・フィリップ/アヌーク・エーメ
●最終話:妄想は賢い女の娯楽道
●第二十七話:秘められた人生計画
●第二十六話:若いだけで素晴らしい
●第二十五話:堕ちてくオトコを助けない
●第二十四話:未来は思い出よりも美しい
●第二十三話:終着点を越えて
●第二十二話:品行方正の言い訳
●第二十一話:そういう人になりたい
●第二十話:本当のお姫さま
●第十九話:昔あったかもしれない楽園
●第十八話:愛を仕分ける年末
●第十七話:ステキな小学生を探せ!
●第十六話:初恋はエクスプレス
●第十五話:帰れない観光客
●第十四話:熟女も踊る
●第十三話:あと出しジャンケン
●第十二話:家電ヒストリー
●第十一話:ご長寿アニマルのたくらみ
●第十話:食べるならとことん
●第九話:異邦人は直訳で会話する
●第八話:こだわらない性格
●第七話:白黒つけたい!
●第六話:他力本願はソレだけ
●第五話:冬眠する蝶
●第四話:イタい女
●第三話:サバイバルのことではなく
●第二話:チョイ役の冒険者
●第一話:レモン・ロマン・やせガマン
Storyteller : 高倉アリス
高倉アリスさんへの
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●第四話:イタい女
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●第二話:チョイ役の冒険者
●第一話:レモン・ロマン・やせガマン
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